銀の精霊・森の狂王・時々、邪神
 あたしはオウム返しに聞き返した。
 森の人間の国……。
『人間の国』って言ったよね? 確かに今、そう言ったよね!?

 あたしの胸に、ぱあぁ!と明るい日差しが差し込んだ。

 いるんだ! ここの世界にも人間がいるんだ!
 その、『森の国』って所に住んでいるんだ!

「あの、どうすればその国に行けますか!? そこに行けば助かるかもしれない! 元の世界に帰る方法が見つかるかもしれない!」

「え? 元の世界、ですか?」

「あたし、ここじゃない別世界の人間なんです! まったくの別世界で暮らしてたんです!」

 あたしは矢継ぎ早に説明した。

 会社の屋上での不思議な雨。
 目が覚めたら砂漠に倒れていたこと。
 ふたつの太陽や月なんて存在しない世界。
 精霊も神もいない世界。

 必死の形相で訴えるあたしを、水の精霊は食い入るように見ている。

 理解、されてないのかな?
 そりゃ、いきなり『別世界からトリップして来ました』なんて言われても驚くだろうけど。

 でも何とか助けて欲しい!
 その森の人間の国って所に、連れて行って欲しい!

 人がいれば文化がある。文明がある。知識がある。

 あたしが元の世界へ帰れる方法が見つかるかもしれない。

「別の世界からいらしたと、そうおっしゃっているのですか?」

「はい! 別世界から来ました!」

「別世界? そんな物が存在するのですか?」

「本当です! 嘘じゃないんです!」

 どうすればこの大変な現状を理解してもらえるんだろう?

 どうすれば、この信じられない事態を信じてもらえるんだろう?
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