銀の精霊・森の狂王・時々、邪神
 周りをグルリと兵士に囲まれながら、あたしはゆっくりとした歩みで前に進む。

 そして玉座の数メートル手先で立ち止まり、そこで初めて狂王の姿をまじまじと見ることができた。

 これが狂王、ヴァニス。

 若い。あたしよりもちょっと年上ぐらいじゃないかしら。

 真っ黒で、緩いウェーブのかかった髪が肩を覆っている。

 そして少しだけ釣り気味の黒い目が、いかにも意思が強そうだ。

 左右対称に整った彫りの深い顔立ちは、美形って言っていいと思う。充分。

 国王で、若くて、美形か。

 貴族の娘達に騒がれそうなタイプね。こっちの世界の美的感覚がどんなものか知らないけれど。

 堂々と玉座に座っている姿は、いかにも一国の王って風格だ。

「おい、王の御前だぞ。ひざまずけ」

 あたしの隣の兵士が、無理やり腕を引っ張ってあたしを床に座らせようとした。

「痛いったら!」

「頭を下げろ!」

「痛いって!」

「よい。お前たちは控えよ」

 ヴァニス王が右手をスッと出し、軽く横に払った。

 兵士達は無言で頭を下げて、足早にあたしから離れていく。

 ふう、やれやれ。でっかい兵士連中にグルッと囲まれて、うっとーしいったらなかったわ。

 さっぱりした気分でもう一度よく狂王の方を見ると、その足元にうずくまる老人の姿に気がついた。
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