銀の精霊・森の狂王・時々、邪神
「……!」

 全身の血が冷たくなった。

 呼吸を止めたまま、あたしの両目はヴァニスを凝視する。

「土の精霊は、余の赦しがあるまで幽閉を命ずる。それでよい」

「承知にござりまする」

『幽閉』の単語に、あたしの中の張り詰めた糸が一瞬緩む。

 え? 幽閉? てっきり処刑かと……。

「その間、他者との接触は一切禁ずる。人間も精霊も、何者とも会わせるな」

「王のお望みのままに」

 あたしは、大きく息を吐き出した。

 よ、よかった!
 何の心境の変化か知らないけど、とりあえずノームの命の補償だけは勝ち取ったみたい!

 これで一勝一敗ってとこね!

 はぁ、まったく心臓に悪いわ。胸を撫で下ろすって、まさにこういう事ね。

「それでは、わたくしめはこれにて」

 長が、床に頭が接触せんばかりに低姿勢で、王に向かってお辞儀をした。

 その姿を見て、あたしは軽い失望感を感じる。

 あれじゃお辞儀というよりほとんど土下座だわ。本当に、完全に服従してしまっているのね。

 長のあの様子を見たら、そりゃ他の精霊達だって士気も下がるわ。

 長はゆっくり立ち上がり、コツコツと杖を突いて歩き出す。

 前かがみになって、いかにもあちこち体が不自由そう。思わず手を貸してあげたくなってしまう。

 歳も歳だし、気弱にもなってるだろうし。それで簡単に王に服従する方を選んじゃったのね。

 今まで「腰抜け」って思ってたけど、こんなご老体じゃなんだかお気の毒だわ。
< 201 / 618 >

この作品をシェア

pagetop