銀の精霊・森の狂王・時々、邪神
 拷問や公開処刑で罪無き者を苦しめて我欲を叶えようとする。

 さすがは狂った王だわ。

 こんな男をこのまま放置しておいたら、人間の国は……いいえ、この世界そのものが崩壊してしまう。

 間違いない。この男は敵だ。

 あたし達にとって。そしてこの世界にとって。

 ふつふつと怒りの込み上げるあたしに、ヴァニスが頬杖をつきながら事も無げに言った。

「土の精霊の命が惜しければ返答せよ。お前は……」

「……なによ!? 」

「お前は、何の為にこの世界へ来訪した?」

「……は?」


 一瞬、気が削がれた。

 なんの? 何のためって?

「お前がここに、この世界へ来た理由はなんだ? 何の目的で、何の為にこの世界へやってきたのだ?」

「そ、それは……」

 あたしがここへ来たのは、だから、偶然で。

 向こうの世界を捨てようとした時と、水の精霊が呼びかけてきた時が、偶然一致して。

 ただそれだけの理由よ。別に何のためでも、何かの目的があるわけでも……。

 ……。

『お前の来訪には、きっと意味がある』

『お前は特別な人間』

 モネグロスや、イフリートや、ジン達の言葉が頭に甦った。

 何度も繰り返し聞いた言葉は、ただの慰めや勇気付けの言葉と思って、そのつど聞き流していた。

 これからの自分の行動によって、その言葉を真実のものにしようと考えていたけれど。
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