銀の精霊・森の狂王・時々、邪神
「世界を飛び越えるほどの異常現象が、ただ偶然に起こるはずがないのだ。そこには必ず理由がある」

 きっぱりと断言するヴァニス。

「起こるべくして起こった現実。それは偶然ではない。『必然』だ」

 ……モネグロスも……まったく同じ事を言っていた。

 確信を持ったその言葉の符号に、あたしは妙な不安を感じる。

 きっかけは間違いなく、あの会社の屋上の出来事。
 でも……。

 あの出来事のせいで、あたしは偶然たまたま異世界トリップしたわけじゃない?

 あたしにはこの世界へ来るべき理由が、その必要があった? だから、あの出来事が起こった?

 そんな風に考えた事なんてなかった。一度も。

「来るべくして来た者、雫よ。お前はこの世界に何をもたらそうとしている?」

 いや、そんなまさか。だって何の理由があるっていうのよ?

 縁もゆかりも無かったこの世界に対して、何のするべき事があるっていうの? あたしに。

 しかも、よりによってあたし?

 とりたてて何の変哲も無い、平凡を絵にかいたようなあたし?

 まさかそんな、無いでしょそれは。

 そんな疑問と不可解と、同意を求めて玉座のヴァニスに無言で訴える。

 でもヴァニスはあたしの答えを求めている。

 ……そうか。それでヴァニスはあたしに用があったんだ。

 よりによってこんな時期に現れた、いわくありげな女に。
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