銀の精霊・森の狂王・時々、邪神
「私は今、ここで最期を迎えます。だから別の水の精霊の力が必要だったのです。仲間の精霊に、苛烈な砂漠を無事に越えてもらうために」

『自分はもう、死ぬのだ』という重苦しい事実を伝える水の精霊の口調は、意外なほど淡々としていて、態度も冷静だった。

 伏し目がちで悲しげではあるけれど、悲壮感はまったくない。

 だから余計にあたしは、その言葉をいまいち信じ切れないでいた。

 だって自分の命が尽きるって時に、なんでこんなに落ち着いていられるの?
 それってものすごく大変なことでしょう?

 それとも、精霊と人間の命には差があるものなのかしら?

 命が尽きるなんて、精霊にとってはたいしたことじゃないの? それに……。

「それで、何であたしが呼ばれたの?」

 必要なのはあたしじゃなくて、水の精霊なんでしょう?

 悪いけど、あたしが駆けつけたって役立たずよ完璧に。

 あなたと一緒に乾物になるくらいしか出来ないわ。

「私の呼び掛けが、他の精霊には届かなかったようです。あるいは、届いてもここに来るだけの力が、もはや残っていないのか」

「精霊の力が残っていない? よく分かんないけど、精霊の力なんて御大層な物が、簡単に無くなったりするものなの?」

 そんなあたしの疑問に、精霊は更に悲しげに答える。

「実はこの世界の神や精霊の力は、いまや風前の灯なのです。だから私の身も、この砂漠に耐えられなかった」

「なんでそんな事になったの?」

「全ては、森の国の狂王が原因なのです」

 森の国の、狂王?
 森の国って、人間の住む国のことよね?
 じゃあ狂王って、人間の王様なの?
 その王様、狂ってるの?
< 21 / 618 >

この作品をシェア

pagetop