銀の精霊・森の狂王・時々、邪神
 ヴァニスは、硬直しているあたしを気にもとめずに馬車に乗り込んだ。

 二人掛けで屋根の無い、オープンスタイルのクラシカルな『馬車』に。

「さあ、乗るがよい」

 ……乗るの!? これに乗るの!?

 妖怪車に乗らなきゃだめなの!?

 なんか、行ってはいけない所に行ってしまいそうな気がするんだけど!

「はっきり言って、乗りたくないわ!」

「いいから乗れ」

「よかったらあたし、後から走ってついていくけど!?」

「おもしろい冗談ではあるが、それに付き合っている時間が惜しい。早く乗るがよい」

 うぅ、やっぱり乗らなきゃならないのね?

 泣く泣く馬車に乗り込むと、『馬』は何が気にかかるのか、長い首をクネッと捻ってジーッとあたしを見続けている。

 瞬きひとつしない横長の黒目の目玉が、異常に怖い。

 お願い! こっち見ないで!

 ただでさえ怖いのに、その顔がふたつも揃うと迫力倍増なの!

 だからあたし、オバケ屋敷は大の苦手なんだって言ってるじゃないの!

 ペキニーズといい、この『馬』といい、あたしってとことん動物と相性良くないのかしら。

 必死に恐怖と戦っていると、座席の後ろの御者が長いたずなをパシッと捌いた。

 馬はようやくあたしから視線を逸らし、前を向いて走り出した。

 やっと妖怪の視線から逃れてホッと安心していると、ひづめの音が左右から聞こえてきた。

 護衛役らしい兵士達が数名、馬車にビッタリ寄り添うように密着してついて来る。

 全員、『双頭の馬』に乗って!

 いや――!!
 前後左右、ろくろ首系妖怪変化にマークされてる――!

 しかも、なんで全員こっち見てるの!? 顔をくっつけんばかりに、あたしを見つめる真意はなに――!?
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