銀の精霊・森の狂王・時々、邪神
「双頭の馬は非常に感性の優れた生き物だ。お前の普通とは違う何かを見抜いたのだろう」

 ふ、普通とは違うって、ろくろ首相手に『普通じゃない』なんて思われる筋合い無いわよ!

 馬たちの双頭のひとつは前を向き、ひとつはあたしを見つめたまま。

 その器用さが怖い~~!
 どうせ前を向くんなら、ふたつ一緒に前向いて走りゃいいじゃないの!

 しつこいようだけどオバケは嫌いなの! あっち向いて―! 頼むから!

 肩に力の入ったあたしを乗せて、馬車は吊り橋を渡り、城下町に入っていった。

 まだ早朝のせいか人影はそれほど多くない町には、四角く質素で、単純な石造りの民家が並ぶ。

 道端を歩いている人達がヴァニスに気がつき始め、みんな驚いたように大きく目を見開いている。

 ヴァニスを恐れているのね。わかるわ。

 最悪な暴君なんかに会った日には、どんな難癖つけられて首をはねられるか分かったもんじゃないもの。

 みんな、早く家の中に避難したほうが……。

「ヴァニス王、バンザイ!!」

 ……。

 え?

「ヴァニス王様――!」

「おいみんな! ヴァニス王様だぞ!」

「名君ヴァニス様―――!」

「王様バンザイ! 永遠なれ!」

 あちこちから賑やかな声が聞こえてきて、ヴァニスはその声に応えて手を振っている。

 え? え? なんで? なにこの状況?
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