銀の精霊・森の狂王・時々、邪神
 なぜみんなヴァニスを賛美するの?

 服従の意思を示すために、心にも無い事を言ってるのかと、あたしは人々の様子を窺った。

 皆一様に興奮し、頬を赤らめ、大きく手を振りながら笑っている。

 あれは作り笑顔なんかじゃない。心からの笑顔だわ。

 じゃあ、この人達は本心から、ヴァニスを名君と讃えているの?

 ヴァニスに手を振り返されて、大喜びしている町の人達の声援に包まれながら、あたしは完全に混乱してしまった。

 なんなの!? いったいなにこれ!?

 どうしてみんなヴァニスに心酔してるの!?

 貴族達がゴマスリで平伏するのは分かるけど、国民たちは全員、圧政に苦しんできたんでしょう!?

 拷問や公開処刑なんて筆舌に尽くし難い苦痛を与えられて!

 集団催眠にでもかけられて洗脳されてるのかしら。これも精霊の力?

 でも、そんな話はひと言も聞いていないし。

 ……どうしよう。理由は分からないけれど、国民はヴァニスを支持している。

 予想では、圧政に対して不満が爆発寸前のはずで、その国民感情を利用するはずだったのに。

 完全に読み間違えてしまった。なぜ? どうしてこんな認識のズレが起こったの?

 こうなってくると、精霊達の心情もどんな風なのか分からない。

 心から服従しているのは、長ぐらいのものだと思っていたけれど、そうじゃないのだとしたら?

 ジン達はこの状況を知っているのかしら? もし知らないでいるとしたら……。
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