銀の精霊・森の狂王・時々、邪神
 何とかしてジンと連絡を付けたい。でもノームとは引き離されてしまったし。

「どうかしたか?」

 やたらと落ち着きなく周囲を見渡すあたしにヴァニスが声をかけた。

「い、いえ。珍しくて」

「そうか。もうすぐ町を抜けるぞ」

 あても無く泳ぐ視線でジンの姿を探し求めても、当然ジンの姿はどこにもない。

 目に見えるのは、ヴァニスに熱狂する人々の姿ばかり。

 そしてますます不安が増していく。

 やがて馬車は町を抜けて、人工的な建物が見えなくなり、視界には広大な自然が広がり始める。

 青い空に遥かな山々。一面の花や緑、豊かな木々。手付かずの美しい自然が生き生きとしている。

 でもそれらを楽しむ余裕なんて、まったく無い。

「どうしたのだ? ずいぶんと無口だが?」

 俯くあたしに再びヴァニスが話しかけてきた。

 ……だめだわ。このままじゃ疑われる。できるだけ平静を保たないと。

「馬車なんて初めて乗ったから。お尻が痛くて大変なのよ」

 実際、かなりな振動が全身に伝わってくる。

 道も舗装されてるわけじゃないし、体は揺れるし、お世辞にも快適とは言い難い乗り物だ。

「そうか。馬車が辛いなら馬に乗っても良いぞ?」

「え゛?」

 馬って、これに?

 相変わらずこっちをガン見してる妖怪馬たちと、視線がバッチリ合った。
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