銀の精霊・森の狂王・時々、邪神
 ……ちょっと……やだわそれ。
 あたしこれからその国に行こうってのに、王様が狂ってるわけ?

 すごく嫌な予感がするんだけど。
 バカな王様が統治する国なんて、悲惨の極みじゃないの?

 その時突然、水の精霊の体がボウッと半透明になった。
「あ……?」
 精霊自身も驚いたように、自分の透ける体を見ている。

「ど、どうしたの? なんだかあなた、透けてるわよ?」

「もう時間がないのです。実体化する力も失せてしまいました」

「えぇ!?」

 精霊の体を透かして、薄っすらと向こうの砂漠の景色が見えて、さすがにあたしは本気で慌て始めた。

 ちょ、ちょっと待ってよ! 本当に、本当に死んでしまうの!?

 そんなの嫌よ! こんな所で独りにしないで!

「お願い! 死なないで!」

「許してください。まさか私の祈りが、別世界の人間であるあなたに届いてしまうなんて。あなたと、こちらの世界と、何か通じ合うものがあったのでしょう」

「そんなこと、今はどうでもいいわよ!」

「いえ、重要なことなのです。なぜならあなたに……」

 しゃべっている間にも、水の精霊の体はどんどん透けていく。

 彼女は悲しげな表情で、あたしに向かって片手を差し伸べた。

「あなたに、私の水の力を受け継いでもらわねばならないからです」

 あたしは差し伸べられた手を取ろうとして、思わず自分の手を引っ込めた。

 水の精霊の力を受け継ぐ?
 なにそれ、どういう事なの?
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