銀の精霊・森の狂王・時々、邪神
「あなたは私の呼び掛けに応え、ここへ召喚された。力を継ぐ資格があるということなのです」

「ちょ……」

「力を継ぎ、私の仲間の精霊と共に砂漠を越えてください。そして砂漠の神に謁見するのです。そして……」

「ちょっと待ってよ!」

 そんな、そっちの都合をベラベラ言われても困るわよ!
 勝手なことばかり言わないで!

 あたしは人間なのよ!? 生まれた時から、混じりっけなしの生粋の人間よ!

 それをいきなり、今から精霊になれって言われたって!

「できるわけないでしょ!?」

「いいえ、やらねばならないのです」

「嫌よ! ゴメンだわ!」

「でなければ、あなたはここで死ぬしかない。砂漠を越える為に、水の精霊の力は不可欠です。でなければとても生き延びられない」

「そ、そんな……!?」

「生きたければ、継ぐより他に道はないのです。もう時間が無い。さあ急ぎましょう」

 焦りの見える精霊を前に、あたしは絶望した。

 この精霊は本気だ。本気であたしに力を継がせたがっている。

 きっと、そうしなければ生き延びられないという話も事実なんだろう。

 そんなのってない。あんまりだ。
『生きたければ人間やめろ』だなんて。

 確かに精霊ってメルヘンで素敵な生き物だけど、それとこれとは話が別よ。
 人間以外の生き物になんかなりたくない。

 生きるために、ドラキュラやフランケンシュタインになれって言われてるのと同じよ。
 はいそうですかって納得できる?

 しかもそんな重要な選択を、たった今すぐ決断しなきゃならないなんて。

 なんでこんな、人生における重大決断が重なるわけ?

 ついこの間、婚約破棄を決めたばかりなのに!? あたし、前世でどれほど悪行を働いたっていうの!?
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