銀の精霊・森の狂王・時々、邪神
「お兄様、ご覧になって! 新しくあつらえたドレス!」

 少女はヴァニスから一歩離れ、その場でクルリと回って見せた。

 どことなく兄に似た、でもまだ幼さの残る顔立ちが自慢そうに笑う。

「良く似合っているよ、マティルダ」

「本当? 嬉しいわ! 何ヶ月も前から作らせていたの!」

「お前は、何を着ても良く似合う」

「まあ、お兄様ったら! うふふ!」

「雫。余の妹だ。名をマティルダという」

 突然ヴァニスがあたしに話を振ってきて、面食らってしまった。

 え? あ、はい、マティルダちゃん?

 なに? あたしも自己紹介しろって事なの?

 えぇっと、何て言えばいいのかしら。

 相原 雫です。出身は異世界です。どうぞよろしくね。

 とは言いにくいし。困ったわね、何て説明すればいいかしら。

 逡巡していると、あたしを興味深そうな目で見ているマティルダちゃんが、ヴァニスに問いかけた。

「お兄様、こちらの珍しい顔立ちの女性はどなたですの?」

 ……。

 珍しい顔……。

 そりゃね、大和民族は偏平な顔立ちよ。

 こっちの世界の人間に比べれば、確かに凹凸は少ないし、東洋系なんて見た事も無いんだろうけど。

 だからってストレートに、『珍しい顔』呼ばわりは無いんじゃない?

 このマティルダちゃんってお姫様なのよね?

 あまりにも育ちが良すぎて、素直過ぎるというか、常識が無いんじゃないかしら。

 高貴な人間にありがちな偏りね。

 子ども相手に腹を立てるなんて、大人気ない事をするつもりは無いけれど。

 ちょっとムカつく。正直。
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