銀の精霊・森の狂王・時々、邪神
「ああ! 分かったわ! ありがとうお兄様!」

 マティルダちゃんはパァッと目を輝かせた。

「マティルダがお願いしていた小間使いね!? どこからか調達してきて下さったんでしょう!?」

 小間……調達って!

 あたしゃあんたの使用人じゃないんですけど!?

 やっぱりちょっとムカつくわ、この子。

「この者は雫という。余の客人だ」

 ヴァニスが、あたしをそう紹介してくれた。

『客人』と言われて、少し意外に感じたけれど、『ああそうだ小間使いだ』と言われなくて内心ホッとする。

 この先、奴隷のようにこき使われるのかと一瞬不安に思ったわ。

「お客人? この女性がお兄様の? この、珍しい顔が?」

 ……ちょっと!

『顔』が客なわけじゃないわよ! あたし自身が客なんでしょ!?

 なにそれ! あなたもう少し一般常識学んだ方がいいわよ!

 ヴァニスといい、この子といい、どうにもカンに触る物言いする兄弟ね!

 遺伝なのかしら! ほんとそっくりだわ!

 ……大人気なく怒るつもりはないけれど!

 ムカムカしているあたしを、少女特有の好奇心いっぱいのキラキラした目で見ながら、彼女は兄に夢中で話しかけている。

「お兄様、これからマティルダと一緒にお食事をして下さるのでしょう?」

「うむ。その約束だったな」

「珍しい顔のお客人も御招待してくださいな。ぜひお話を伺いたいわ」

 興味津々のニコニコ笑顔に、毒気を抜かれてしまう。

 この子、よっぽどこの顔が珍しいのね。なんだか自分が珍獣になった気分よ。

 まあ確かに、この世界にとってあたしは珍しい存在ではあるけど。
< 233 / 618 >

この作品をシェア

pagetop