銀の精霊・森の狂王・時々、邪神
 食事に招待してくれるという事は、この子に悪意があるわけではないんだろう。

 ただただ純粋に、遠慮というものを知らないだけなんだわ。

 仕方ないわね、生まれが生まれだし。それに躾がなってないのは本人の責任じゃないわ。

「雫、マティルダが望んでいる。食事の席に同席するように」

「……ええ」

 あたしはヴァニスに向かって頷いた。

 マティルダちゃんは素直に喜んでいる。

「嬉しい! とても楽しみだわ! では珍しいお顔のお客人、また後ほどお会いしましょうね!」

 マティルダちゃんは軽く腰と膝を折って会釈をし、くるりと背を向け歌いながら駆け出す。

 その軽やかな足取りを、侍女達が慌てて追って行った。

 ふう、なんだか豆台風みたいだったわね。素直な明るい子だけど。

 あの子これからずっとあたしを、『珍しいお顔のお客人』で通すつもりかしら。

 まずは雫って名前を教え込まないと。

 半人間だの、頭の弱い娼婦だの、こっちに来てから、まともに名前で呼ばれたためしがない気がする。

 やれやれだわ。

 溜め息をついているあたしを見て、何かを勘違いしたらしいヴァニスが、

「少々騒々しいが、とても良い子なのだ」

 と弁解してきた。

 ふうん、妹を可愛がっているのね。

 悪辣非道な狂王のくせに、妹萌えか~。ふんっ。

 一応いっちょまえに、肉親に対する情くらいは持ち合わせているみたいね。

「ただひとりだけ生き残った、余の身内だ」

 ……。

 ひとりだけ『生き残った』?

 その言葉の中に悲しみを感じて、あたしはヴァニスを見上げる。

 ヴァニスは、愛しげな表情で走り去る妹を見守っていた。
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