銀の精霊・森の狂王・時々、邪神
 生き残ったって事は、過去に内乱か何かが起こったのかしら?

 ありえるわね、王家にありがちな権力闘争だ。

 それでヴァニスと妹を残して、他の家族は皆殺しにされてしまったわけ?

 でも同情はしないわ。
 だってそれは、ヴァニス自身が国民に対してやった事だもの。

 さんざん人の家族を奪っておいて、自分だけ同情してもらおうなんて虫が良すぎる話よ。

 そんな理屈は通用しない。

 ……まだ子どものマティルダちゃんに罪は無いし、気の毒だとは思うけど。

 ヴァニスが片手を軽く上げると、侍女らしき女性が、すぅっと音も無く背後に近寄ってくる。

「雫を食事に同席させる。用意せよ」

「はい」

「体を拭き、着替えさせるのだ」

「承知いたしました」

 ヴァニスが、チラリとあたしに視線を流して言った。

「どうも臭うのでな」

 ……!?

 に、臭うって、あたしが!?

 あ! あの地下牢のトイレの箱!

 汚物の悪臭が充満してた。いやだ、あの臭いが体に染み付いちゃったんだわ!

「この臭いと共に食事をするのは、勘弁願おう」

 慌てふためくあたしを横目に、ヴァニスは口元に笑いを浮かべて離れていった。

 あ……あんたねぇ! なに笑ってんのよ!

 誰のせいだと思ってんの!? あんな所に一晩突っ込んだ、あんたの責任でしょ!?

 こっちだって本心じゃ、あんたと食事をするのなんてカンベン願うわ!


 あたしは侍女に促されて移動しながら、ヴァニスの背中に向けて心の中で悪態をついた。

< 235 / 618 >

この作品をシェア

pagetop