銀の精霊・森の狂王・時々、邪神
 部屋の中を見回して精霊の気配を探っていると、侍女が素っ気無い声で「おりませんよ」と話す。

「え?」

「城内に精霊達はおりません」

「でも今、精霊の力って……」

「精霊の長の力ですよ」

 精霊の長? 

 あぁ、あのロン毛の総白髪のおじいちゃん。足腰の悪い。

「城内に居る事を許されているのは、長だけですから」

「長だけ?」

「長はたったひとりで、ありとあらゆる精霊全ての力を使えますので。精霊の長の特別な能力です」

 へぇぇ、すごいのね。あんなお年寄りなのに。

 老いたとはいえ、さすがは長ってところかしら。

 感心していると、侍女達の中で一番若い女性が、明るい声で話しかけてきた。

「長ひとりで、この城全体の用をまかなえちゃうんですよ」

「用? 用ってどんな?」

「今みたいに湯を沸かしたり、夜でも昼のように明るく照らしたり」

「あぁ、そういえばすごく明るかったわね」

 城に忍び込んだ時の、酒宴の広場を思い出した。

 あの不自然なほどの明るさは、やっぱり精霊の力を利用していたんだわ。

「炊事も掃除も洗濯も、ほとんど何もしなくていいんです。力仕事も。本当に楽ですよぉ」

 そういえば……ジンが言っていた。

 精霊は、人間達のために働かされているって。

 こちらの世界は、生活の作業の全てが、ほとんど人力なんだわ。
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