銀の精霊・森の狂王・時々、邪神
 以前、あたしの住んでる地域が停電して断水した時、本当に大変な思いをした。

 生活用水を運ぶのも、お湯を沸かすのもひと苦労。

 夜はロウソクの灯りだけが頼りだし、冷蔵庫は使えないし、洗濯もままならないし。

 元の生活に戻ったとき、心底ホッとして嬉しかった。

 あの不便に感じた生活よりも、さらに労力の必要な暮らしをしていたのよね。この世界の住人達は。

 それが劇的に変化したんだ。

 あの時のあたしの嬉しさなんて、もう比較にならないほどの喜びだろう。

 でもそのために精霊達が犠牲になっているのに、この自慢そうな様子からして、まったく無自覚みたいね。

 この世界の人間達ってずいぶん自分勝手だわ。ジンが人間を嫌うのも無理ない。

 普通だったら『申し訳ない』とか、『いまの生活は間違ってるんじゃないか』とか考え……

「お客様は異世界からいらしたって本当ですか?」

「え?」

「城中の噂ですよぉ」

 好奇心丸出しの侍女の表情。

 やっぱり噂になってたのか。そうだろうとは思っていたけど。

「お客様の住んでた世界って、どんな風なんですかぁ?」

「どんなって聞かれても……」

「こっちみたいに、精霊の力を利用できないんでしょう? さぞかし不便でしょうねぇ。お気の毒に」

「……」

「こっちに来て本当に驚いたでしょう!? 豊かで便利な国で!」

 いかにも誇らしげな声に、なんだかムッときてしまった。
< 238 / 618 >

この作品をシェア

pagetop