銀の精霊・森の狂王・時々、邪神
「さあ早く。本当に時間が、時間がもう……」

「あなたを助ける方法はないの!?」

「ありません。だから力を継いで、私の仲間を救ってください」

「仲間救うより、あなたを救う方が先決でしょ!?」

「それは不可能なのです。きっともうすぐ風の精霊がここへ来る。彼と共に……あぁ……」

 儚げな声と共に、精霊の体がグラリと後ろへ倒れた。

 限界まで透けて、もはや朧な影のようになってしまった体の形を留めることもできず、輪郭も崩れかけている。

「待ってお願い! あたしを独りにしないでー!」

 あたしは無我夢中で精霊の体を抱き止めようとしたけれど、それは叶わなかった。

 あたしの両腕が、スゥッと音もなく精霊の体を突き抜けて、ふたりの視線が重なり合う。

 ほとんど透けてしまっていても、彼女の空色の美しさだけは、まだ僅かに残っていた。

 その空色の、なんと純粋で気高い美しさ。

 吸い込まれるような、今まさに、この世界から消え去ろうとしている命の輝き。


(どうか逝かないで・・・)


 あたしの胸に、強烈な悲しみが込み上げる。
 取り残される不安以外の、深く大きな感情が胸を占めた。

 寂しさと、悲しさと、それからこれは……。

 わずかな『希望』?

 なぜこんなときに、『希望』なんて感情を覚えるの?
 これは、水の精霊の感情だろうか?

 重なり合った体を通して、彼女の感情が、流れる水のように私の中まで流れ込んできている?
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