銀の精霊・森の狂王・時々、邪神
 そして翌日。

 小気味良いほどに、カラッと空は晴れ渡った。

 ……そりゃそうよね。あれだけ満天の星空だったんだもの。頑張って雨乞いしたけど無駄だったわ。

 侍女が運んできてくれたお湯で顔を洗い、口をすすぐ。
 そしてパンと卵とスープの食事を済ませた。

 イスに腰掛け、溜め息をついているうちに、あっという間に

「お時間でございます」

 ……視察の時間が来てしまった。

 うー、来たかぁ。

 ここで『あぁ、急に具合が……』とか言ってフラついてみても、白々しいわよねぇ。

 朝飯ぜんぶ平らげといて、さすがにそれはね。

 マティルダちゃんとも約束したし。というか、強引に押し切られたんだけど。

 でもズル休みみたいな真似はできないわ。大人として。

 そうよね、行くと決めたなら、行かなきゃ。

 嫌な予感っていっても、ただ気が重いだけなんだし。気持ちに負けてしまって逃げ腰になってちゃ意味が無い。

 自分にできる事をする。そう決めた。

 やらなきゃならない事は依然としてあるんだ。逃げてる場合じゃない。

 訳の分からない不安に怯えていても始まらない。まずは動いてみよう。行動だ。

 あたしは「よし!」と気合を一発入れる。

 そして案内役の侍女の後ろを、背筋を伸ばして着いていった。

「雫さま!」

 元気な声が通路に響いた。

 明るい赤色のドレスに身を包んだマティルダちゃんが、あたしを目掛けて笑顔で駆けて来る。

「雫さま、マティルダのお願いを聞いて下さってありがとう!」

 その可愛い姿と笑顔に心が和んだ。
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