銀の精霊・森の狂王・時々、邪神
「マティルダちゃん、今日もとっても素敵ね」

「本当? 嬉しいわ! 雫さまにお気に入りの宝石を見せてあげようと思って、身に着けてきたの!」

 満面の笑顔で、自慢そうに張られた彼女の胸元に輝く宝石は、透き通った明るい緑色。

 うわぁ、これってエメラルド? 大きなエメラルドねぇ!

 そして、自慢げに差し出された両手の華奢な指には、ダイヤモンドの指輪が。

 カットは単純で輝きこそ地味だけれど、これまたデカいわ! 立派な存在感!

 あたしが婚約者から貰ったダイヤなんて、これらに比べたらスズメの涙よ。

 可憐な両耳には、大きくて真っ赤なルビーのイヤリング。
 見蕩れるほどの深い濃い赤が、今日のドレスにピッタリだ。

「すごいわねぇ! これ全部マティルダちゃんの物なの?」

「そうよ、マティルダのよ!……あげないわよ?」

「別に取り上げたりしないから安心して」

 あたしは笑ってそう答えた。

「お母様が亡くなった時にね、宝石やドレスは全部マティルダが受け継いだの。それから自分でも少しずつ増やしたのよ」

 ニコニコと嬉しそうに説明してくれる。

「今日身につけているのは、全部お母様の形見のお品よ」

 懐かしそうに自分の指のダイヤモンドを眺める、幼い表情。

 この宝石が、かつて母親の指で輝いていた記憶を思い出しているんだろう。

 そうか。この子にとって宝飾品は、亡くなった母親のようなものなんだ。

 母親が死んだ時、まるで身代わりのように手に入れた物。

 キラキラと色褪せることなく、昼も夜も変わらずに輝き続ける。

 ひとりぼっちの寂しい心を慰めてくれる、癒してくれる。そんな大切な、心の支えのようなものなんだろう。

 可哀想に……。本当に寂しい毎日を送っているのね。
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