銀の精霊・森の狂王・時々、邪神
「マティルダ。雫」
「あ! お兄様!」

 姿を現したヴァニスの元へ、マティルダちゃんは大喜びで駆け寄って、赤く染まった頬で嬉しそうに色々と話し掛けている。

 微笑みながら、いちいち頷いて聞いているヴァニスに、従者が遠慮がちに声を掛けた。

「ヴァニス王様、お時間が押しております」

「あぁ、分かっている。ではマティルダ、続きはまた今度な」

「え、ええお兄様。また今度……」

 従者や護衛の兵士達に囲まれ、ヴァニスは歩み去っていく。

 あたしもその後に続きながら、気になって後ろを振り返る。

 あたし達を見送るマティルダちゃんの姿は、まるで置いてきぼりをくらった子犬そのものだった。

 でも鳴き声を上げることもなく、じっと黙って我慢をしている。
 マティルダちゃん……。

「雫、ノロノロするな。さっさと来い」

「……」

「なんだ? その、物言いた気な目は?」

「別にぃ~~」

 たったひとりの妹に、こんな寂しい思いをさせるなんて。

 やっぱり目を覚まさせてやらにゃダメだわ! コイツは!

『仕事』のひと言が、全てを許す免罪符だと思ってるのよね、こーゆータイプって。

 そりゃ国王なんて職務は、普通と一緒に考えちゃいけないんだろうけど。

 でもヴァニスの場合、やらなくていい仕事まで背負い込んでフル回転してるんだもの。自業自得だわ。

 神様を消滅させるヒマがあったら、妹と一緒にいてやりなさいよ。
< 255 / 618 >

この作品をシェア

pagetop