銀の精霊・森の狂王・時々、邪神
 ヴァニスが目を覚まして、反省して、世界の全てが元通りになったら、きっとマティルダちゃんにも良い影響を与えるわ。

 政策方針の転換は反発もあって大変だろうけど、政治は先を見据えた決断だって重要よ!

 今は辛くとも、きっとこの先、世界にとってプラスになるはずだわ!

 そうよ、万事丸く収まる。だからこれは正しい事なのよ。

 やっぱり漠然とした不安感なんかに負けちゃだめだわ。正義のために勇気と自信をもたなきゃ!

 あたしは気を強く持ち、馬車に乗る。
 昨日と同じ、ふたり掛けの妖怪馬車だ。

 そして昨日と同じ、ろくろ首の妖怪馬がこっちを凝視してくる。

 うっ……と一瞬身構えて、それでも負けずに睨み返してやった。

 ニュウッとあたしに向けてくるその横っ面を、手の平でベシンと引っ叩いて、カウンターを食らわしてやった。

 しつこいのよ全く! ジロジロ見ないでよ失礼ね! 見物料徴収するわよ!

 スゴスゴと馬は前を向き、馬車が進みだす。

 ふ、ふふ。だいぶ妖怪にも慣れてきたわね。うんうんよーしよし。

「また昨日とは、ずいぶんと態度が違うものだな」

「集団で追い立てられたら、嫌でも免疫がつきますからねぇ~」

「余のお陰、というわけかな?」

「お陰というか、仕業というかねぇ~」

 ケッ、と小声で息を吐くあたしを、ヴァニスが面白そうに眺めている。

「今朝はずいぶんと強気だな」

「あらそんな事ありません。わたしはいつでも平常心ですから」

「ほう? そうか?」

 いきなりヴァニスが顔を寄せてきた。

 彼の唇が耳元に近づいてきて、思わず肩に力が入る。

 な、なによ!? ちょっと近すぎ……


「泣いていたろう? 昨日の夜に……」

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