銀の精霊・森の狂王・時々、邪神
 お母さんが、彼の事をどうこう言っていたのだって……『お前の男を見る目が無かった』と、あたしを責めていたわけじゃない。

 あたしの、味方をしてくれていたんだろう。

 元々あいつはそういう人間だったんだ。お前は何も悪くない。だから元気を出せ。

 ……そう、言いたかったんだろう。ふたりとも。

 なぜ気付かなかったんだろう。
 どうして、今になって気付くんだろう。
 いつも失ってから気がつく。手放してから、やっと。

 彼の事も。家族の事も。
 ジンの事も。

 のっぴきならない差し迫った状況になって、初めて分かる。

 表面だけでは見ることのできない、奥深い部分に。

 そして後悔するんだ。
『なぜあの時ちゃんと見る事ができなかったんだろう』って。

 あたしは、元の世界に帰るために旅立った。

 帰りたいと思う。懐かしい世界へ。
 帰れたら、今度こそちゃんと両親や皆と向き合いたいと思う。

 でも、帰ったら、ジンとは?

 もう二度と会えなくなってしまう……?

 あたしは、自分の不出来さ故にこの世界へ来てしまった。

 そして後悔して、元の世界へ戻る旅を決意した。

 でもこの世界で、恋をしてしまった。

 銀の精霊、風のジンに。

 そしてまた、思い悩み揺れている。

 堂々巡りだ。
 なんの進歩もしてないじゃないの。

 あたしはこの先、またどんな後悔をするんだろう。

 過去を振り返り、再び「どうしてあの時……」と悔やむ時が来るんだろうか?
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