銀の精霊・森の狂王・時々、邪神
 体と心が、水の感覚にたゆたう。
 ユラユラ、揺らめき満たされる。

 そう、これは生命を満たすもの。
 命を守り、育み、救う偉大なもの。

『そうです。救って……』

 ゆっくりと、あたしは閉じていた両目を開いた。

 水の精霊が、波打つ水面のようにその姿を揺らめかせながら微笑んでいる。

 その表情はとても満ち足りて、光を浴びて輝いている。

 あたしの耳も、水の音で満たされている。
 
 打ち寄せるような、流れるような、幸福で、豊かで壮大な音色に。

『どうか、その力で救ってください。仲間を』

 精霊は穏やかに、ゆっくりと空色の瞳を閉じた。

『そして……世界を……』


 地に落ちて、砕ける水音。
 精霊の体は弾けるように霧散した。

 あの気高く美しい、透き通る青が、どこまでも清らかな香りを遺して、消えた。

 あぁ……逝ってしまった……。


 後はただ、黄色い砂漠の大地が広がるのみ。

 風に吹かれ、乾燥した空気にさらされながら涙を流し、あたしは砂の丘を眺める。

 広大な景色の中で、ポツンと、独りぼっちで。

 この作り物のような受け入れがたい世界は、紛れもなく現実の世界。
 また……振り出しに戻ってしまった……。


 あたしは砂漠に突っ伏し、声を上げて泣いた。


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