銀の精霊・森の狂王・時々、邪神
「この前の嵐は大変だったものなぁ」

「うちも天井が崩れてしまったわ」

「毎回毎回、嵐が来るたびに大きな被害が出るものな」

 みんなが溜め息をついて、顔を見合わせている。

「大雨が降っては水害になるし」

「そうかと思えば、日照り続きで作物に被害が出るし」

「海が荒れれば事故が起き、船乗りは命を落とし……」

「大嵐がきて、木々は倒れて家は崩れて、乾燥する時期は山火事が起きる」

「本当に苦労ばかりしていたなぁ……」

 あたしは町の人々の、しみじみとした苦労話を聞きながら思った。

 どうやら天災のたびに、大変な被害が出ていたみたいね。

 治水工事の技術もそれほど発達していないみたいだし、造船や建築技術も高度なわけでもない。

 大規模な火災が起きても、それを鎮火する技も持たない。

 これじゃあ何か起きるたびに、さぞかし人命がたくさん失われたろう。

 そのたびにこの国の人々は、唇を噛み締めて耐え続けてきたんだ。

「でもこれからは違うぞ!」

「そうだ、もう神や精霊達の所業に恐れおののく事はない!」

「ヴァニス王様が新しい世界を我々に与えてくださった!」

「ヴァニス様バンザイ! 新世界バンザイ!」

 あちこちでヴァニスを讃える声が上がる。

 ヴァニスは右手を高く掲げ、それらの声に誇らしげに応えた。

 あたしは、華やかな空気の中をただひとり、笑顔の無い表情でうろたえていた。
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