銀の精霊・森の狂王・時々、邪神
 肌の色は水の精霊と同じく陶器のように真っ白で、なんとも表現しがたい、滑らかな不思議な質感をしている。

 銀色の髪は、まるで絶えず風に吹かれているように、休むことなくフワフワと揺らめいている。

 真っ直ぐにこちらを見つめる同色の瞳は、強い砂漠の陽射しに照らされてキラキラ反射して、吸い込まれるように美しい。

 水の精霊は華奢な体格で、すごく可憐でたおやかだったけれど、この精霊はシャープに整った顔立ちと、すっきりした体躯をしている。

 例えるなら……そう、切れ味の良いナイフを上品な細工の鞘に収めている。そんな印象だ。

 どちらの精霊も、すごく綺麗で魅力的なのは変わらないけれど。

 その美しさに思わず見蕩れているあたしに向けて、精霊の形の良い唇が動いた。
 そして放った第一声が……。

「おいこら、そこの人間」
「……え?」

 あたしは、その妙に不機嫌そうな声にビクッと体を震わせた。

「あ、あたし? あたしのこと?」

「そう、お前だお前。ぼうっとするな人間。さっさと行くぞ」

「行く?」

「ああ。事情は知ってる。お前と水の精霊の会話は、風に乗って聞こえていたからな」

 この男の言う事情ってつまり、あたしが人間の身でありながら、水の精霊の力を継いだことだろう。
 でも……。

 あたしは自分の全身を、あちこち隈なく点検してみた。

 別に……何がどう変わったとも思えないんだけれど……?

 手は二本、足も二本、胴体も頭もひとつずつ。

 尾びれもないし、水掻きもないし、ウロコも生えてない。エラも……無いわね、やっぱり。

 水の力を受け取ったせいで、いきなりシーラカンスみたいな姿になってたら絶望ものだから、ひとまず安心ではあるけれど。

 あたし、これで本当に継承したのかしら?
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