銀の精霊・森の狂王・時々、邪神
 次々と責め立てる言葉が、胸に突き刺さって辛い。

 以前のあたしなら、はっきりと声に出して反論したろうけど、今はそれができない。

 ほんの少し前には、完璧に『正義』だと信じていた事が、今では確信がもてないからだ。

 あたしは、モネグロスやジンの話しか聞いていなかった。

 神や精霊の話だけを聞き、この世界の人間を罪だと断じた。

 当の人間本人の話は、何ひとつ聞きもしないで。

 それが……それこそが、失くしたパズルのピースだったんだ。

 世界では、皆がそれぞれの立場で生きている。なら、それぞれの立場なりに、それ相応の事情も意見もあるだろう。

 人間達にしてみれば、今回の件は当然ながら許し難い暴挙だ。

 でもジン達にしてみれば、それを行うだけの正当な理由があった。

 彼らにしてみれば、自分達こそ被害者で、正義だから。

 でもその正当性など、片一方だけの理屈にすぎないんだ。

 人間側からみれば、そんなのはただの屁理屈にしかなり得ない。

 人間と、神と、精霊。この世界の主軸となる、三つの存在。

 それぞれに深く関わり、それぞれの思惑を覗いてしまった、異世界から来たあたし。

 あたしはこの先どうすればいいんだろう。何を目的として、どう行動するべきなのか、分からない。

 道に迷い、途方に暮れてあちこちを見比べているような、そんな心細さに襲われる。
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