銀の精霊・森の狂王・時々、邪神
「あ、ごめんなさい雫さま。恐ろしい事を思い出させてしまって」

 暗い表情で黙り込んでしまったあたしを見て、マティルダちゃんが心配した。

「あ、ううん。あの、もう大丈夫だから心配しないでね」

「全然大丈夫じゃないわ。雫さま、血だらけだったんですもの」

「血だらけ? あたしが?」

「ええ、そうよ。頭からたくさん血が出ていたわ!」

 あぁ、そういえば頭に瓦礫が激突したんだったわ。

 頭の怪我は、派手に出血するって聞いたことがある。

 この体の痛みは、きっと二日間も寝たきりだったせいね。急に動いたせいで、全身の関節や筋肉がびっくりしているんだわ。

 マティルダちゃんや侍女たちから聞くと、血だらけで意識もないあたしが城内に運び込まれた時は、どうやら大騒ぎだったようだ。

 その姿を見たマティルダちゃんまで、気を失って引っくり返りかけたらしい。

「雫さま、死んでしまうかと思ったわ」

 マティルダちゃんがウルウルと目を潤ませている。これは相当心配をかけてしまったらしい。

「ごめんね。心配かけて。みんなにもたくさん迷惑かけてしまったわね」

 あたしは侍女達にも謝罪した。

 きっと交代しながら、付きっきりで看病してくれていたんだ。

 本来のマティルダちゃん付きの仕事もあるだろうに、本当に申し訳ない事をしてしまった。

「いいんですよ。そんなこと」

「そうですよ。同じ人間同士、仲間じゃありませんか」

「助け合うのが当然ですよ」

 みんな笑顔で優しい言葉をかけてくれる。

 ……そう。みんな優しい人達なんだ。

 決して悪人なんかじゃない。思いやりのある親切な人達。

 ジン達だってそうだわ。
 なのに……種族という枠越しに見た途端、お互いが悪逆非道で危険な存在になってしまうなんて。
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