銀の精霊・森の狂王・時々、邪神
 そんなの変よ。何かが間違ってる。

 相手が違う種族でも、お互いにわだかまりがあったとしても、理性を持って歩み寄りさえすれば、解決できないはずがない。

 希望的観測にすぎないかもしれないけど、でもあたしは、善意というものを信じたい。

 事態が拗れているからこそ、傷つけ合わずに済む道さえ見つかれば、みんな喜んでそっちへ進んでくれると信じたい。

 今のあたしは完全に迷子状態だけど、ぼんやりとしか見えないその道を見つけ出しさえすれば、きっと。

 考えに耽っているあたしの横で、マティルダちゃんがグスグスと鼻を啜っている。

「マティルダ、もう誰かが死んでいくのは見たくないわ」

 そう言って彼女は、レースのハンカチで左右の目を交互に拭いた。

 あぁ、そうか。マティルダちゃんの家族は、ヴァニス以外みんな死んでしまったのよね。

「あたしのせいで辛い記憶を甦らせてしまったわね。ごめんね、マティルダちゃん」

「雫さま、死んだりしない?」

「大丈夫よ。死んだりしないわ」

「本当に? 死なない?」

「ええ、死なないわ」

「でも、『頭の中に血が残ってたら、ある日突然ポックリ逝く』って……」

「……誰が言ったの? そんなこと」

「お兄様」

「……」
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