銀の精霊・森の狂王・時々、邪神
 あたしは、ヴァニスの話をろくに聞いちゃいなかった。

 だから、彼の話をちゃんと聞かなければならない。まずはそこから始めよう。

 自分にできる精一杯の事をするって、あたしは自分自身に誓ったんだもの。

 そうすればどんなに困難に思われる状況でも、きっと良い方向に進んでいけるわ。

 ねぇ、あなたもそう思うわよね? ジン。

 ……ジン……。

 あの後どうしたろう。無事だろうか? ちゃんと回復したろうか。

 不安な気持ちと、心配な気持ちと、切なく熱い感情が次々とこみ上げる。

 ジンは弱った体で、懸命にあたしを求めてくれた。

 あたしを守り、奪い返そうとしてくれた。

『オレの雫』と……言ってくれた……。

 不謹慎なのは百も承知だけど、あの美しい銀色を思い出すたび、どうしても心が焦がれるのを止められない。

 ジンに会いたい。会って話したい。

 わだかまりを解決して、笑顔で向き合いたい。

 そしてそれから、勇気を出して、あたしの気持ちを伝えたい……。

 伝える事によって、ひょっとしたら彼の存在を失ってしまうことになるかもしれないけれど。

 仮に気持ちが通じ合ったとしても、ハッピーエンドにはならないかも。

 なんといっても、種族が違うし世界も違うし、複雑な事情が盛りだくさんだし。

 どんな展開になるのかまったく予測がつかないから、この先が怖い。怖いけれど。

 それでもこの気持ちはどうしても、どうしても……。

 もう、自分でもどうしても……。
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