銀の精霊・森の狂王・時々、邪神
 自分の側だけの理屈が、絶対的な正義ではない。

 あたしはそれを知った。

 もちろん自分の中での基準は必要だけれど、妄信すると大変な事になる。

 より良い環境や、生き残りを賭けて戦うことを、簡単に罪とは断じれない。

 だからこそ、道はひとつだけじゃないと信じたい。

 この世界の、神や精霊や人間たちが共存できる道を、なんとか見つけ出したい。

 諦めたくはない。たとえ悪あがきだったとしても、絶望したまま何もしないで逃げ出すのはもう嫌だって、あの時心底思ったんだもの。

 ここへ来られて良かったと、心から思える時を迎えたい。

 少しでも何かをしたい。何かを変えたい。やってみたい。

 卑屈だったあたし自身が変わるためにも、諦めたくない。

 ここで出会った人達を信じたい。

 どんなに複雑で、困難な事情があっても『それでもきっと』って、信じたいの。

 陽射しが傾き、暮れていく様を見ながら、あたしはずっとそう考えていた。

 夕暮れの太陽は瞬く間に沈んでいく。

 雲を彩る綺麗なオレンジが、見る間に濃度を増して紺色に変わっていった。

 やがて窓の外は黒く染め上がり、星たちが盛大に輝き始める。

 穢れの無い夜空。地上でどんなに混乱が起ころうとも、空は変わらず澄んでいる。

 それは人の心を捕らえて離さないほど美しい。

 本当に、見惚れるほどに美しいわ。でも……

「……暇」

 あたしは深々と溜め息をついた。

 いや、さすがにヒマだわ。ずっと空ばっかり見てるのも飽きた。

 でも身動きとれないし、他に見るもの無いし。
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