銀の精霊・森の狂王・時々、邪神
 真面目な顔でそう返答されて、あたしはカクッと力が抜けた。

「そんなことはどうでもよい。余を中に通せ」

「だめって言っても入るんでしょ? どうせ」

「当然だ。余がわざわざ食事を……」

「はいはい分かった分かったどーぞ」

 部屋に入ったヴァニスがテーブルにお盆を置いて、すすめられてもいないうちに、さっさとイスに座る。

 まるで玉座に座っているかのような堂々とした雰囲気だけれど、おかげで余計にエプロン姿が笑いを誘う。

 クツクツと忍び笑いをするあたしを見て、ヴァニスが口を開いた。

「体調は良いようだな」

「ええ。心配をかけてごめんなさい。それと助けてくれてありがとう」

「うむ。さあ余に気を使わずに食事をしろ」

「後でいただくわ」

「だめだ。今だ。しっかりと食べられる様子を余に見せねば承知せん」

 あたしは苦笑いをした。

 たぶん、心配してくれているのよね。この言い草だけど。

 あたしは素直にお礼を言ってスープをいただく。二日ぶりの食事は胃に染み渡った。

「ヴァニス、こんな時間までお仕事?」

「あの精霊の反乱のせいで執務の量が倍増してな」

「……そう」

「まだ休めぬ。本当に災難だ。あの精霊達めが」

 なんていえばいいのか分からない。

 また暗い気持ちに陥りそうで、あたしは明るい声で話題を変えた。

「そんなに忙しいのに、なんでまたここへ?」

「聞きつけたのだ」

「聞きつけた? 何を?」

「お前が余に会いたい一心で、大騒ぎを起こしたと聞いてな。仕事も放り出して駆けつけた」

「ブッ!!」

 あたしは思わず口からスープを吹き出した。
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