銀の精霊・森の狂王・時々、邪神
 絶望のどん底に突き落とされたショックのあまり寝込んでしまい、会社を何日も休むはめになった。

 とてもじゃないけど、職場で彼の顔なんて見られない。

 あの子に至っては飛び掛って殴りつけて、本気で首を絞めてしまいそうだった。

 それでも、同僚達にこれ以上仕事で負担をかけられない。
 必死に責任感を奮い立たせ、ボロボロに傷ついた心に鞭打って、私は這うようにして出社した。

 ……ところが、そんな私をさらに打ちのめす現実が待ち構えていたなんて。

 私と彼の婚約破棄の一件が、どこでどうして漏れたものか、社内一番の面白おかしい話題になってしまっていたなんて……。


『ねえ、噂聞いた!?』

『聞いたー! 婚約破棄の件でしょ!? 新人の子の方が積極的だったんだって!』

『そうそう。突然彼の前で思わせぶりに泣き出したんでしょ? で、『この涙の理由は絶対言えないの』ってさ』

『そりゃまー、言いにくいでしょうねーさぞかし』

『そんで、『だって好きになっちゃダメな人を、好きになってしまったの……』って、涙ウルウルの瞳で彼を凝視』

『絶対に秘密なわりに、露骨にバラしてんじゃん。自分から』

『しかもさぁ、『ほんとバカだなぁ、あたしって。テヘ』って、泣き笑いしながら手の平で自分の頭をペチンしたんだってさ』

『うわ……なにその、みえみえの演出……』

『そのみえみえ演出にコロッと引っかかった彼って、つくづくバカよねぇ』

『そうねぇ。彼はホントにただのバカだけど、相原さんは気の毒よね~』

『ほんとよね~。あんなに幸せそうだったのに』

『結婚式の直前で、これは相当なショックよ。当分立ち直れないんじゃない?』

『本当にお気の毒にね』

『可哀想よねぇ』

『ほんと、可哀想に』

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