銀の精霊・森の狂王・時々、邪神
 あたしはテーブルに頬杖を付いて、つくづく考え込んでしまった。

 はあ、なるほどね。別にどっちに非があるとか、責任があるとか、そういうんじゃ無いんだ。

 でも『思い』って、一度すれ違っちゃうと面倒なのよ。ものすごく。

 激しく思い込んでしまうのよね。自分の主観交じりの相手の人物像を。

 あたしだって、ヴァニスの真意はまったく汲み取れなかった。

『狂王』の人物像の固定観念から、彼の人格について激しく思い込んでしまっていたから。

 うん。その点は理解できたわ。そのうえで……

「それで、なぜ拷問や公開処刑を?」

 神に対して卑屈になる必要は無い。その考えは分かった。

 人間が生き抜くために、精霊達を支配しようとしている理屈も分かった。

 それで、なぜ拷問や公開処刑?

 なぜ神を慕う人間達に対して、そこまでする必要があったの?

 神の存在が、人間の社会に対してどんなハードルになると言うの?

「だって神は、人間を愛して庇護してくれていたんでしょう?」

 ヴァニスは黙ってあたしを見ていた。相も変わらず、その黒い瞳は正々堂々と真っ直ぐだ。

 その揺ぎ無い視線をあたしに向けたまま、ヴァニスは語り始める。

「余は人間の王である」

「ええ、知ってるわ」

「王ならば、民を守らねばならぬ。世界から。神や精霊の所業から」

「うん。だから、神の何がそんなに……」

「だから神や精霊達が、人間の命を奪い続けている事実を放置できなかったのだ」
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