銀の精霊・森の狂王・時々、邪神
 意外な言葉に、あたしは思わず眉間にシワを寄せた。

 ヴァニス、今あなた、何て言ったの?

「神や精霊達が……なんだって?」

「人間の命を奪い続ける事を、見過ごすわけにはいかない。王として」

 人間の命を奪う? 奪うって?

 あ……ああ、そういう事か。

「ねえヴァニス、嵐や水害で犠牲がでる事に関しては……」

「その事ではない。いや、もちろんそれも重大な問題のひとつで、関連はあるのだか」

「?」

「火や、水や、風や、土。この世界の自然は、神が作り出したのだ」

「ええ、知ってる」

「当然、自然は人間のために存在しているわけではない。自然は……精霊は、精霊自身のために存在する。人間が人間自身のために存在するように」

「ええ、もちろん」

「さすれば、彼らにとっては理に叶った行動が、我ら人間に害する事もある」

 そりゃそうよ。災害って結局、そういう事よ。

 別に自然に悪気があって、水害を起こすわけでも、嵐を起こすわけでもないわ。

 ただ起こるべくして起きてしまうのが災害よ。

「だが実際に災害が起きれば、我ら人間の生活は壊滅状態だ。多数の人命が失われ、生活基盤は粉砕される。非力な人間には、それに対抗する手段が無い」

 その通りよ。

 あちらの世界は防災に関して、一応こちらより対応が進んでいるけれど、それでも基本、来る者は拒みようがないってのが現状だわ。

 自然の威力に対抗する事なんて、人間にはできない。

「そう。できないのだ。人間にはその力が無い。だから……」

「だから?」

「だから太古、人間は神に救いを求めたのだ」
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