銀の精霊・森の狂王・時々、邪神
「神に救いを?」

「人間は神に祈った。つまり、助けて欲しいと泣きついたのだ」

 あぁ、うん。雨乞いとか、豊作祈願とかの神事の事ね?

 あるわよ。そういう事はあちらの世界にも普通にたくさん。

「精霊達は、神の眷属のような存在だ。結局自然の力をどうにか出来るのは、神しかいない」

「えぇ。そんな事が可能なのは神様ぐらいのものだわ」

「雫の世界でも、そういった儀式はあるのか?」

「あるわよ。本当に型通りの儀式化しちゃってるけど」

「その際に、神に捧げ物はしないか?」

「するわよもちろん。お米とかお酒とかお塩とか」

「他には?」

「果物とか野菜とかお魚、とか……」

 一瞬、ちらりと胸に嫌なものが走った。

 捧げ物。供物。

 魚、羊、牛、豚。

 それらを捧げ、人々は神に救いと慈悲を求め、祈りを捧げる。

 大抵は、それぞれの地域で最も神聖だといわれる、大切にされてきた生き物の命。

 ……。

 この世界で……。

 最も神に寵愛され、大切にされている存在は?

「まさか……」

 まさか、まさか……。

 ヴァニスは瞬きもせず、困惑しているあたしを見ながら言った。

「神は願いを叶える条件として、捧げ物を要求した。我ら人間の命を」

 あたしは息を呑み、目を見張り、声を失った……。

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