銀の精霊・森の狂王・時々、邪神
 生贄? 人身御供? 神が?

 ありえない! 神が……人間を愛する神が、その人間本人の命を奪うなんて!

 あたしは思わずテーブルを叩いて叫んだ。

「そんなのありえない!」

「それがこの世界の現実なのだ」

「だって、おかしいわよ! 理屈に合わないわ!」

 救うために命を奪う!? 本末転倒だわ! 

 しかも、こよなく愛する人間の命を!?

 そんなのおかしい! どう考えても道理から外れているでしょう!?

「道理には合っている。神は悪意で人を殺すのでは無い。純粋に、その必要があるからだ」

「必要ってどんな必要よ!? 人の命を奪う、どんな必要があるっていうのよ!?」

「自然の力を捻じ曲げるという事は、神でさえ膨大な力を使わねばならない」

「膨大な、力……?」

「精霊には精霊の『摂理』があって動いている。神が「やめろ」とひとこと言った程度では、『摂理』というものは微動だにしない」

『摂理』。

 そ、れは、確かに……簡単に変わってもらっては困る。

 世界の摂理を、神様の気持ちひとつでコロコロ変えられたら堪らない。それじゃ世界が崩壊してしまう。

「膨大な力を行使するためには、それに相応しいだけの代償が必要なのだ」

「その、代償が……」

「この世界で最も神に愛される貴重な存在。つまり我ら人間だ」

「あ……」

 そういえば、モネグロスとジンが言っていた。神とはいえ簡単に他種族の事情に介入できないって。

 それが摂理だって。

 本来、曲げてはならないものを無理やり曲げるには、そのための代償を払わなければならない……。
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