銀の精霊・森の狂王・時々、邪神
 いつか我が子が人身御供にされる日の為に、大慌てで結婚して、産めるだけ子どもを産んで、せっせと育てるの?

 そんなの歪んでる! 絶対に間違ってるわよ!

「それが当然のしきたりだった。悲劇ではあったが、誰一人として疑問も持たず、行動も起こさなかった」

「どうしてよ!?」

「人間が心から神を敬い心服し、平伏していたからだ」

「あ……」

「そういうものだと思い込んでいたのだ。人身御供を捧げれば、神が御慈悲を下して助けて下さる、とな」

 神だから。創造主である神様だから。

 非力な人間は縋るしかなく、何も疑問を持たず、ただ平伏するのが当然だったんだ。

 ずっとずっと気が遠くなるほどの長い年月、その考えが定着していた。

 でも、その中で突然……。

「しかし、余は疑問を持った」

 ヴァニス。
 人間の王に即位した男。

「なぜ唯々諾々と従わねばならぬのかと」

 なぜ父王は死なねばならない?

 なぜ母上は死なねばならないのだ?

 ふたりとも、兄上達や、余や、マティルダを力の限り抱きしめて、

『愛している。お前達の大きくなった姿を、ひと目だけでも見たかった』

 熱く迸る涙と、今生の別れの言葉と共に、逝かねばならない?

 不幸にも、災害はたて続けに発生した。

 即位した長兄は、ほんの二年。

 次に即位した次兄に至っては、わずか半年の命であった。

『マティルダを、国民を頼む』と言い残し、兄上達は消えていった。

 ……なぜ? そしてこれは一体いつまで続く?

 永遠か?

 この世界の終焉の日まで、我らは犠牲になり続けなければならないのか?
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