銀の精霊・森の狂王・時々、邪神
 とても受け入れられぬ。

 兄が人身御供に捧げられた時、狂ったように泣き叫んだ妹。

 行かせまいと兄の服にしがみ付き、髪を振り乱し、絶叫して泣き喚いた妹。

 次は……次はこのマティルダの命が……。

 絶対に、そうはさせぬ。

 余が守る。守ってみせる。

 余は歴代の王家から託されたのだ。人間の命運を。

 何があろうと、妹も国民も、王たる余が守りきってみせる。

 定めだからと諦めはせぬ。

 神も人も精霊も、みな等しい。

 だからこそ、戦わねばならぬのならば戦おう。

 そして必ずや、人間を勝利に導き守り通して見せよう。

 余は強く決意した。そして国民に通達したのだ。

 もはや、神に捧げる生贄は不要。神の慈悲も不要。

 我ら人間は、自分自身の力で戦い抜き、生き残ると。

 余が神に変わって皆を導こう、と。

 だが……反発は大きかった。

 無理も無い。太古から連綿と続く神達への畏敬の念は、根強かった。

 特に、神に深く関わる神官等は、余を激しく非難した。

『神をも恐れぬ不届き者。国王のせいで人間は神の怒りに触れ、災害によって破滅に導かれよう』

 破滅を恐れる者達は多かった。

 そして集団で命を絶ち、次々と自ら人身御供となっていく。

 ……これでは、全てが無意味だ。

 そして余は思い知ったのだ。もはや神達との共存は限界であると。
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