銀の精霊・森の狂王・時々、邪神
 砂漠の中で、風に揺れる銀の髪を見ながらあたしは逡巡する。

 絶望したのが悪いっていうの?
 だって、仕方ないじゃない。あんな目に遭わされたら耐えられなくなって当然だわ。

 そりゃ、いきなり死を選ぼうとしたのは、いま考えれば早計だったかもしれないけど。

「確かにお前の意思以外にも、反応する作用があったんだろうさ。だがな、お前は自分の世界を見限った。その結果この世界へ来たんだ」

「……」

「その全ての責任を、自分以外の物になすり付けるなよ」

 揺れる銀の髪。
 こちらに向け続ける背中。
 その肩越しに見える、風に流れる黄色の砂の大地。

 異質な光景の中で、あたしはもう、何も言い返すことができない。

 黙ってうつむき、重い胸を抱えて、ただ唇を噛み締めるだけだった。

「無駄話はもういい。行くぞ」

 しばらくの沈黙の後、風の精霊がそれを振り切るように言い出した。

「行くって、どこへ?」

「砂漠の神の神殿だ。何度も聞いただろう?」

「あぁ、神殿……」

「何度も同じ言葉を繰り返させるなよ。うっとうしい半人間だな」

「……」

「そんな、いかにも傷付いたような顔をするな。イライラする」

「……」

「だから、それだよ。その『さも自分は傷付きました』風な顔付きがイラつくんだよ」

「……」

「なんだ? 今度は下から目線で睨みつけるのか?」

「……」

「その、いかにも恨みがましい顔をやめろ。気分が滅入る」

「どーすりゃいいのよ一体!」

 注文の多い男ねまったく! こっちこそイラつくわ!

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