銀の精霊・森の狂王・時々、邪神
 人間の意識から、神への畏敬の念を完全に払拭する。

 たとえそれが原因で神の怒りに触れようとも、これは人間の存続を賭けた戦いなのだ。

 余は、『神の像を破壊し、神に関する書物を焼き払え』と命令した。

 従わぬ者は極刑に処すると宣言した。

 そして現実に……実行した。一切の慈悲も容赦もなく。

 すると、神達の力はみるみる衰えた。

 それに伴い、元々神達の眷属でもある精霊達の力も弱まった。

 一連の動きに精霊の長が恐れをなして、人間に服従する意思を申し立ててきた。

『このままでは精霊も消滅する。我らは服従しよう。だから人間達の、我らを必要とする意思までも消し去らないで欲しい』と。

 そして……今に至る。


「これが余の語る事実であり、余にとっての真実である」

 ヴァニスはそう言って、疲れたように目を閉じた。

 あたしは重苦しい心を持て余しながら、言葉もなくヴァニスを見ていた。

 シン……と室内は静まり返り、外の闇とは対照的な明るさが、二人の表情を照らしている。

 あたしは知らなければならなかった。ヴァニスの、人間側の真実を。

 そして今、こうして知って……今までになく激しく動揺している。

 人間によって滅ぼされる寸前の、神としての立場。

 人間によって従属を強いられている、精霊としての立場。

 精霊の起こす災害に苦しみ、神からの人身御供の要求に限界まで苦しみ続けた、人間の立場。

 ……どこかに、道があると思った。

 道行く先に希望があると。

 希望が? 光りが?

 あたしは、呆けたように暗闇に立ち尽くす。

 ……どこに?
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