銀の精霊・森の狂王・時々、邪神
 あぁ、そうか。そういう事なら……。

「はじめまして。相原 雫です」

「……なぜそういう発想になるのだ?」

「え? だって近視なんでしょう?」

「お前という女は、まったく」

 ヴァニスは何ともいえない複雑な表情になって、肩を震わせながらクツクツと声を忍ばせて笑った。

 ものすごく楽しそうなその笑顔は、今まで見た事も無いような表情だった。

 国王としての威厳に満ちた顔でもなく、マティルダちゃんに向ける、頼れる兄としての顔でもない。

 ただの普通の青年のような、そんな顔をして笑っている。

「雫の事を、もっと良く知りたいと思う」

「あたしを、知りたい?」

「お前は、初めて会った時から特別、かつ強烈であった」

 強烈……。

 果たして褒め言葉の意味なんだろうか。それは。

 まぁでも、確かに強烈としか表現のしようが無いのかも。

 初めての出会いは、剣を挟んでの一騎打ち(と、あたしは思ってる)。

 その時から一貫してタメ口全開、無礼千万。

 王家の象徴の馬には悲鳴を上げ、料理ひとつに目を丸くして興奮する。

 あげく血だらけになって運ばれるし、見ていて飽きないのは確かだろう。

 楽しいかどうかは別として。

 そう言うと、ヴァニスは白い歯を見せて愉快そうに笑った。

「いちいちもっともだな。お前の言う通りなのだが、その全てが理由でもあり、そのどれも理由では無い」

「え?」

「説明が出来ないのだ。自分でも。なぜこんなにもお前の事が気になるのか」
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