銀の精霊・森の狂王・時々、邪神
 城から出たいという要望は、聞いてもらえなかった。

 いくら懸命に頼んでも、涙交じりで哀願しても、頑として聞き入れてもらえない。

 アルプスの少女ハイジに出てくる、ロッテンマイヤーさんみたいな初老の侍女長が、

「雫様を城から一歩も出すなとの、王のご命令でございます」

 ってセリフを無表情に繰り返すだけ。

 ヴァニスめ、あたしの次の行動を見越していたのね。先手を打たれてしまったわ。

 それならヴァニスに直談判しようとしたけど、それも出来なかった。

 彼に会う事を禁じられてしまったから。

 どうやら昨夜の一件が、このロッテンマイヤーの耳に入ったらしい。

『病み上がりの御婦人相手に、少々自重なさいませ』

 とかなんとか、ヴァニスに苦言を呈したようで、しばらくの間謁見は許可されないような手配になっていた。

「雫様は大事な御身体でございます。ようく御療養なさいませ。王にもしっかりと申し上げておきましたから」

 って優しい言葉を、無表情で、扉の前でドーンと仁王立ちしながら言われてかなりビビッた。

 いるのね。こっちの世界にもお局様って。国王陛下も逆らえないのか……。

 日本の大奥みたいに、ガチガチにシステマチックでは無いみたいだけど、基本的に女の世界はどこも似たり寄ったり。

 お局様に逆らうのは、ほぼ不可能とみていいだろう。

 それでも多少の自由は許されていたから、いっそチャンスを狙って脱走してやろうかとも真剣に考えたけれど……。

 さすがロッテンマイヤー、抜かりは無い。

 あたしが部屋から出る時は、侍女がベッタリ張り付いてマークしていた。

 一人になれるのは部屋の中にいる時だけ。

 しかも見舞いと称して、たくさんの貴族たちが顔を売り込みに来る。

 どうやら御手付き候補の噂が、完全に広まってしまったらしい。
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