銀の精霊・森の狂王・時々、邪神
 急がなきゃ! まごまごしていられないわ!

 でもどうやって部屋から出ようか!?

 扉の外にはヤモリのように、ベッタリ侍女が張り付いているし!

 あぁもう! なにが乙女よ! なにが御手付きよ! そもそも、そのせいで余計な混乱が……!

 ……そうだわ!!

 ピンと閃いたあたしは、急いで扉に駆け寄った。

 コホンと咳払いし、息を落ち着けながらゆっくり扉を開けると、外に控えていた若い侍女がこちらに振り向く。

「ねぇちょっと、聞きたい事があるんだけど」

「どうなさいましたか? 雫様」

「その、あたし、よく知らなくて不安なの」

「? なにがでございますか?」

「もうすぐ迎える事になる、ヴァニスとの時間の事なんだけど」

 怪訝そうな侍女の顔が、次の瞬間『あ!』っというようにパッと赤らんだ。

 そしてモジモジしながら小声で答える。

「ヴァニス王様とのお時間、と申されますと、その……」

「えぇ、つまりこの間の、その続きの事なの」

「つ、続き……」

 侍女の顔がますます赤く染まったけれど、あたしは素知らぬ振りで、無知な乙女の芝居を続けた。

「あたしは、ただ黙って一緒のベッドで眠ればいいのよね?」

「え!? あ、そ、そうだと思い、ますけど」

「じゃあ、どうしてヴァニスはあたしの服を脱がせたのかしら?」

「え゛!? そ、それは……」

「なぜあたしの体の、あちこち恥ずかしい部分に触れる必要があるの?」

「そ、その……」

「あたし、驚いてとても混乱してしまったの」

 侍女は真っ赤になって無言で俯いてしまった。
< 337 / 618 >

この作品をシェア

pagetop