銀の精霊・森の狂王・時々、邪神
 大きく深呼吸し、あたしは覚悟を決めて蓋に手をかける。

 待ってましたと言わんばかりに音が頭の中に鳴り響いた。

 ぐうぅぅ~~~っ!!
 ぎも゛ぢわ゛る゛い゛~!!

 脳みそをグチャグチャと掻き回されるような不快感。

 背筋を強烈な生理的嫌悪感が駆け上る。

 まるで音に支配でもされてるかのように、腕も指も、ピクリとも動かない。

 たぶん、手を離そうとすれば動くんだろう。蓋を開けようとしている間だけ動かなくなる仕組みなんだわ。

 ……根性の捻じ曲がった仕掛けね! こんなのに負けないわよ!

 頑張れ! 耐えろ! 箱から手を離しちゃダメ! この腕を、ほんの少し上げればいいだけよ!

 そうして腕を動かそうとすると、音の強烈さが倍増した。

「うああぁぁぁ!!」

 さすがに耐え切れず悲鳴が出た。

 気持ち悪い! 気持ち悪い! 嫌だ嫌だ嫌だ! この音は嫌だあぁ!

 意志の力ではどうしようもできない、本能的な嫌悪感に全身が覆い尽くされる。

 蛇や、ミミズや、ナメクジや、ムカデ。

 それらがたっぷり詰まった穴に、頭までガッポリ埋まって溺れている自分の姿の幻覚が見えた。

 あまりの不快感に筋肉が痙攣する。呼吸もままならなずに、泣きながら悲鳴を上げた。

「嫌ああぁぁぁ―――!!」

「し、しずくさん!?」

「うあぁぁ! ああぁ――!」

「しずくさん! も、もうやめてください! もういいですから!」

 ノームも泣きながら叫んでいる。

 死にもの狂いで泣き喚くあたしの声に、様子も分からず心配で堪らないんだろう。

「もうやめてください!!」

「やめたく、ないぃ――!!」
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