銀の精霊・森の狂王・時々、邪神
 全力疾走した後のような大量の汗と、切れ切れの呼吸。

 もうヘトヘト。起き上がる気力も体力もゼロ。

 ほんとにあのまま発狂死するかと思った。水の力が無かったら、きっとそうなっていたと思う。

 はあぁ、今さらながらゾッとするわ。

「ノーム、大丈夫だった? ごめんね、勢い良く上から落っことしちゃって。ケガしなかった?」

「ごめんなさい。ごめんなさいしずくさん」

「え?」

「わたし、全力でしずくさんを守るってやくそくしたのに。ごめんなさい!」

 ノームは手で顔を覆って、しくしく泣き出してしまった。

 あぁ、そういえば城に潜入する前に、約束してくれたっけ……。

 あたしは床に倒れながら、親指姫のような小さなノームが泣きじゃくっている姿を眺める。

 やっぱり大きくなってないなぁ……なんて事を考えながら。

「守ってくれたじゃないの。そのせいでこんな箱に、ずっと閉じ込められてたんでしょう?」

「しずくさん、でも」

「ありがとうノーム。それとごめんね、あたしのせいで」

「……」

 への字にキュッと結ばれたノームの唇が、ふるふると震えた。

 そして可愛らしい顔をクシャクシャにして、「ふえぇ~」と再び泣き出す。

 ……ふふ、相変わらず可愛いねぇあんたは。

 本当にこの子が無事で良かった。

 ノームに何かあったら、またイフリートがブチ切れて暴走しちゃうしねぇ。

 あたしは微笑みながら、苦労も吹っ飛ぶ思いでノームの無事な姿を眺めていた。

「……あ」

 ひとしきり泣いていたノームが急に泣き止んで、驚いたような表情のまま固まってしまう。

 ノーム? どうかしたの?
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