銀の精霊・森の狂王・時々、邪神
 四苦八苦の末ようやく庭に辿り着き、あたしは左右を忙しく見渡した。

 夜の庭は城からの明かりのお陰で、真っ暗闇なわけじゃないけど、やっぱり見通しは悪い。

 あちこちから生えている植物に突っかかりながら、ジンの姿を求めて探し回る。

 ガサガサとドレスを引っ掛けながらどんどん進んでいくと、懸命に凝らす視界の端に、キラリと光る銀色を見た気がした。

 期待に心臓が跳ね上がり、あたしはその場に立ち止まる。

 やがて、高く太い樹の幹の陰から、草を踏む音と共に人影が現れた。

 銀色の髪を風に靡かせるその姿を見て、あたしの胸に表現しきれない大きな感情が膨れ上がる。

「ジン――!!」

「雫!!」

 あたしはジンに向かって走り出した。

 胸元からノームが勢いよく飛び出して、ジンの後ろから駆けて来たイフリートの手の平に飛び込んでいく。

「イフリート! あいたかったです!」

「ノーム! 我は非常に心配した!」

 手の平にノームを包み込んだイフリートが、その手を自分の胸に大事そうに引き寄せた。

 あたしとジンはぶつかるように抱きしめ合い、背中に回ったジンの両腕が、強くあたしを包み込む。

 あたしも負けずに、ジンの首の後ろに回した両腕にギュッと力を込めた。

 胸が、一杯。

 嬉しすぎて、もう言葉にならない。

 この気持ちを言葉で表現するなんて不可能よ。

 ……もう、泣きそう……。

 あたし達はしばらくの間、声も無く抱きしめ合っていた。
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