銀の精霊・森の狂王・時々、邪神
 フラフラとよろけ、なんとか踏みとどまったけれど、まるで地震のように眩暈がする。

 焦点の定まりきらない目で、ジンの姿を見た。

 ジンは……やっぱり悲しそうで、そしてもう諦めていた。

 霞んだ目にも、歴然とそれが見てとれた。

 あぁ、初めて会った時の目をしている。

 砂漠で出会ったあの時、あたしを『ただの人間』と蔑んでいた、あの時と同じ目を。

「嫌……」

 あたしは、ふるふると頭を振った。

 とにかく否定したかった。

 何をどう言って、どうすればどれを否定できるのか、全然考えが回らないけれど、とにかく否定したかった。

 嫌よ、違うの。
 違うのよ。間違ってないの。
 とにかく嫌なの。嫌なのよ。

「嫌よ。だってあたし……」

「……」

「だってあたし、あなたを愛してる」

「……」

「愛してるわ、ジン。これは間違いなく事実で真実なのよ」

 伝えようと決意していた言葉。

 再会できたら、きっと告げようと思っていた感情。

 あたし、あなたを愛してる。

 これは、この言葉だけは……

 この無情な犠牲と、不可能が満ちた世界で、ただ、この言葉だけが一筋の道行く先の光のように……

「自分の居るべき場所へ戻れ。人間」

 そう言い捨てて、ジンはクルリと背を向けた。

 あたしの両目から、滂沱のごとく涙が流れ落ちた。
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