銀の精霊・森の狂王・時々、邪神
 背を向けて歩み去ろうとする後ろ姿を、泣きながら追った。

「待ってよ! ジン!」
「待ってどうなる?」

 振り返りもせず返された言葉に、足が竦んだ。

「待ってどうなる? お前はどうするつもりなんだ?」

 縋るようにジンの背に伸べられたあたしの腕が、心細く宙を抱く。

 待って……どうなる? あたしはどうするの?

 はい分かりました言う通りにします。

 城には戻りません今すぐ砂漠に直行です。

 人間の事はいいですこのまま無視します。

 さぁ急いで砂漠に行きましょう。

 そして、ジンと仲良く砂漠で末永く幸せに暮らしましたとさ。

 めでたしめでたし。

 ……。

 正直、そうしたい。このままでは人間の滅亡はほぼ確定だ。

 その人間の元へ戻ったら、あたしも運命を共にする事になる。

 滅びたくない。滅びるのは怖い。助かりたい。

 ジンの事を諦めたくない。ジンの側にいたい。ジンに愛されたい。

 彼の愛を手に入れて、ふたりで幸せになりたい。

「……」

 あたしは彼の背に向かって伸ばした腕を、静かに下ろした。

 無理だ。できないそんな事。
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